川柳や俳句の世界では、助詞の「も」は句意を弱くしてしまうと言われています。
「春は花」「春の花」「春も花」。春は、春の、と書いたとき、読み手に浮かぶ季節は春のみですが、「春も」と書いたときは、春以外の季節も並列してしまいますね。桜や梅を思い浮かべる「春は花」という表現に比べて、「春も花」では、「夏や秋、冬にはどんな花があったかなぁ」となります。「も」は主役を薄くしてしまう可能性があるということを意識しておくと、文章には強弱が生まれてきます。
会話で使う「僕も、私も」の「も」の使い方には注意
さて、助詞の「も」。この「も」は会話の中にもよく登場します。
A:「昨日、上司にこんなことを言われてさ。すごく腹が立ったよ」
B:「そうなんだ、実は私も会社で嫌なことがあったんだ」
A:「そうなの?」
AさんとBさんの会話。Aさんは上司に言われた理不尽なことをBさんに聞いてほしくて会話を始めます。ところがBさんが「私も」という言葉を使ってしまったために、Aさんは聞き役になってしまいました。会話の主役はAさんからBさんに。このあとの流れは想像していただけるのではないでしょうか。これは助詞の「も」が主役を薄くしてしまう良くない使い方。
相手が悩みや相談、愚痴を伝えたがっているときは「僕も、私も」を使うのではなく、相手の語尾を繰り返すと会話は円滑になります。
A:「昨日、上司にこんなことを言われてさ。すごく腹が立ったよ」
B:「そんなに腹が立ったんだ。どうしてそんなことを言うんだろうねぇ」
会話で使う「僕も、私も」の「も」。「も」を使う効果的な場面とは
「も」は主役を弱くしてしまう、主役を変えてしまう可能性があるという話をここまでしてきましたが、逆に、主役を弱くする「も」を効果的に使える場面があります。主役を強引に奪ってしまいたい場面で使う「も」がそれ。たとえば、お偉いさんの会話が長引いて、会話の方向がずれてしまった状況を想像してみると良いでしょう。
A:「苦節30年、私が経営者になってから色々なことがありましたが(中略)それでも今なおこうして…」
B:「いやほんと、それは大変でしたね。実は私も3日通った学校で資格が取れたと大喜びしていたのですが、Aさんの経験と比べるといかに甘いものだったということがよくわかります。いやお恥ずかしい」
こんな風にしてみると、Aさんの話(自慢?)に終始してしまいそうだった流れが、Bさんの「も」によって主役の存在を薄くすることができたと言えますね。これは助詞の「も」の効果的な使い方になります。
助詞の「も」は主役を薄くするから、メリットもデメリットもある
「も」は前につく言葉を薄くします。
助詞の「も」は主役を薄くする可能性があるので、「僕も、私も」は使い方に注意する。
ただし、「も」を使って、あえて主役を薄くして、脱線した会話を元に戻す使い方にも応用できる。
主役を薄くするからこそ、使ってはいけない場面、こんな風に使うと有用という場面があります。ただ、日常の会話やSNSのコメント欄のやりとりなどを見ていても「も」で主役を奪ってしまっているケースはよく見かけますので、このようなことを書いている自分自身も、いま一度、使い方に注意を払っていくようにしたいと思います。