飲食店や土産屋さんで「どうぞご賞味ください」と言いながらお客様に商品や試食品を提供している場面を見かけることがあります。お店が「ご賞味ください」ということを誤用とも言い切れないのですが、今回はこの「賞味」という言葉の意味についてまとめてみます。
「ご賞味ください」という言葉は使わないほうがいい言葉
ご賞味くださいの【賞】という漢字は功績に対して与えらえる褒美という意味がありますが、褒美の「褒」という字からもわかる通り「褒める(ほめる)」という意味がります。
「ご賞味ください」の賞味とは
「褒めながら食べること・美味しいと思って食べること」という意味
「賞味」の意味は「褒めながら(味わいながら)食べる」こと。賞味の意味をそのままあてはめると「お客様、どうぞこちらの食事を褒めながら食べてください」という意味になってしまう可能性があります。
商売をされている方は、お客様に自信をもって食事を提供されているわけですから「大いに味わって食べてください、存分にこれを味わいつつお召し上がりください」というニュアンスで伝えている可能性もあり、「ご賞味ください」という言葉がお店→お客様の関係のなかで、必ずしも誤用であるという断定はできません。ただ、多くの場合は「お客様にご満足いたただけるかどうかはわかりませんが、よろしければどうぞ、お召し上がりください」という謙虚な姿勢で「賞味」という言葉を使われているのではないでしょうか。
謙虚、謙遜の意味合いである「良かったらどうぞお召し上がりください」というニュアンスで「ご賞味ください」を用いるのは、やはり適切ではないと考えるべきでしょう。
「ご賞味ください」という言葉を控えめの意味で用いる場合は「お召し上がりください」という言葉を使うと覚えておけば大丈夫です。
「ご賞味ください」はどうして誤って使われるようになったのか ~「お召し上がりください」を使うようにしよう
私たち日本人は謙虚謙遜を美徳とする文化があります。たとえば贈り物をするときに「つまらないものですが」という言葉を添えることによって、控えめな自分の立場を表しますね。このように、自分の立場を一段下げて相手を高めるときに使う言葉に「笑」という字を用いることがあります。
受け取ってください→「ご笑納ください」
読んでください→「ご笑覧ください」
「ご笑納ください、ご笑覧ください」という言葉の背景には「受け取っていただくにはつまらないものかもしれませんが」「貴重な時間を割いて読んでいただくには乱文で大した内容でもありませんが」というニュアンスがあるのはご理解いただけるのではないかと思います。
「ご賞味ください」という言葉も、元々は「ご笑味ください」と書かれていたものが次第に誤って使われるようになったといわれています。賞味期限という言葉がありますが、これも上述した本来の意味で考えれば「美味しくお召し上がりいただける期間」という意味であることがわかります。
控えめな立場を伝えたつもりが、実は不遜な意味になってしまうのでは勿体ないですね。「ご賞味ください」という言葉の元々の意味を理解したうえで、これからは「お召し上がりください」の意味を理解して使い分けるようにしたいものです。