「話のさわり(触り)」の誤用と正しい意味と ~最初の部分という意味ではない「さわり」
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最終更新日:2014/08/28
140文字で変わる表現力 さわり, 誤用
「時間の関係もあるし、話のさわりの部分だけでも聞かせてよ」という風に頼まれて、伝えるのはどの部分でしょうか? 話のさわりを導入部分と考えてしまうのは誤用。今日は「さわり(触り)」という言葉の誤用と正しい意味、由来について説明します。
「話のさわり(触り)とは最初の部分という意味ではない
「さわり」を感じで書くと「触り」。触れるという語感から「深く突っ込むのではなく、最初の部分だけさらっと触れる」と捉えられることが多いようですね。
大辞林(iPhoneアプリ)では「さわり(触り)」は元々浄瑠璃用語、義太夫節(ぎだゆうぶし)以外の先行の曲節を義太夫節に取り入れた箇所であると説明しています。別の曲節の優れた部分を義太夫節に取り入れている、つまり、音楽でいえば曲のイントロではなくサビの部分が「さわり」であるというわけです。
「さわり」とは話の聞かせどころ、映画演劇の名場面見どころという意味。要点やもっとも興味をひく部分を指す
「話のさわり」とは導入部分ではなく、メインとなる箇所。一番盛り上がるところを指します。桃太郎でいえば「むかしむかし、あるところに」で始まる部分がさわりとなるのではなく、「桃太郎がイヌ、サル、キジたちを家来に従えて鬼を退治した」という部分が「さわり」になるということですね。どの部分を「さわり」と考えるかは人それぞれですが、さわりは最初の部分のことを指すのではないと覚えておくことが肝要です。
文化庁の国語に関する世論調査でも半分以上の人が間違っていた
平成19年度に行われた文化庁の国語に関する世論調査でも、「さわり」の意味を全ての年代の人が本来とは違う「最初の部分」という意味で使っていることがわかりました。
文化庁 | 文化庁月報 | 連載 「言葉のQ&A」
「話のさわりだけ聞いた。」などと使う「さわり」。「国語に関する世論調査」では,「さわり」の意味を「話などの最初の部分のこと」と考える人が半数を超えているという結果が出ました。 …
言葉は時代とともに変化することが多いのですが、世代間で大きな隔たりがないところから察するに、やはり「触れる(ふれる)」という言葉の持つ語感がそのような誤解を生じさせていると考えるべきでしょう。冒頭のように「話のさわりを聞かせてください」という表現を用いると、どちらかが誤解してしまう可能性もあります。「要点を教えていただけますか」「話の最初の部分だけでも聞かせてくださいませんか」という風に、お互いが気を揉むことのないような表現に置き換えてみるのも良いかもしれません。
変化に柔軟に対応することも、言葉が本来持つ正しい意味を理解しておくことも、それぞれの考え方があります。知っている側が知らない側に配慮のできる、そんな言葉の選び方こそ美しいと思うのですがいかがでしょうか。
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