「ご進言ありがとうございました」と使っていませんか? ~「進言」の誤用と意味に注意
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140文字で変わる経営, 140文字で変わる表現力 僭越ながら, 敬語, 誤用, 進言
「ご進言(しんげん)ありがとうございました」というフレーズを使ったり聞いたりしたことはないでしょうか? お店や会社でお客様からご要望やご意見を承ったときにこのフレーズを用いるように指導しているところが実際にいくつかあったのですが、「ご進言ありがとうございます」「ご進言ありがとうございました」という言葉をお客様に対して使うのは誤り。今回はこの「進言」という言葉の正しい意味について確認します。
「ご進言ありがとうございます」という言葉はなぜお客様に使ってはいけないのか
進言という言葉の意味は目上の人に意見を述べること。部下が上司に、後輩が先輩に意見を言うなど、下から上に対して「言わせてください」という態度で臨むときに用いる表現です。
「進言」とは、上の立場の人間に対して意見を述べること。お客様に対して「ご進言ありがとうございます」という表現を用いると、相手を下に見ていることになってしまう
「ご進言ありがとうございます」という言葉をお客様に対して使ってしまうと、「(下の立場であるあなたがそれはどうも、わざわざ)意見をありがとうね」というニュアンスになってしまうということですね。お客様はわざわざ時間を割いてお店や会社のためにお気持ちを伝えてくださった。そこには最大限の感謝と敬意が向けられるべきなのに、お客様を下に見るような言動をしてしまうようではいけません。「貴重なご意見、確かに承りました。ありがとうございました」というような表現にしておくべきでしょう。
「進言」という言葉はどうして誤用されるようになったのか
進言という言葉を分解すると「進んで言う」と解釈することができるような気がします。「わざわざ伝えてくれるだなんて、時間も手間もかかるだろうに進んで言ってきてくださってありがとうございます」という漢字のイメージから、相手に対する敬意が含まれた表現であると誤解、誤用されるようになったと推測することができます。
字面から想像のできることが漢字の面白い点でもあるのですが、想像が事実を超えてしまっては意味がありません。進言とは目上の人に対して意見を述べるときに使うこと。「部長に改革案を進言する」「監督!僭越ながらメンバー起用について進言させてください」というフレーズを実際に声に出して馴染ませることで、「ご進言ありがとうございます」という誤用のイメージを上書きしてほしいと思います。なお、この例文でお伝えしましたが、目上の方に対して何かを伝えるときは「僭越ながら」という言葉を枕につけたほうが良いでしょう。
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