秋の日は釣瓶落とし ~秋の日の入りは一日に一分以上早くなっていく、三夕の歌
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140文字で変わる表現力 三夕の歌, 和歌, 秋の日は釣瓶落とし
この時期、夕方になると「日が落ちるのが早くなった」という会話をよくします。まさに秋の日は釣瓶落とし。釣瓶とは小さな器、それに縄などを繋いで井戸の水を汲むのに使います。釣瓶が井戸に落ちていく様子と、日の落ちるのが早くなった様子を重ねているわけですね。
ちなみに「秋の日は釣瓶落とし」の「日」を「日にち」の意味で使うのは誤り。たとえば「秋の日(日々)は釣瓶落としで、すぐに冬がやってくるね」というのは誤用となります。
秋の日の入りは一日に一分以上早くなっていく
平均すると、秋の日の入り時刻は一日に一分以上早くなっていきます。10月の初旬から11月の初旬にかけては実に40分以上も日の入りが早くなる地域も。これが夏、夏至後の7月から8月ごろにかけては一か月で20分程度の変化しかありません。夏の日の入り時刻の変化と比較して秋はそのペースが一気に早まることから、より一層夕暮れまでの時間を早く感じるようになるのかもしれませんね。
静岡県長泉町には「つるべ落としの滝」という滝があります。
落差20mのこの滝は普段は枯渇していて、雨のときだけその様子を眺めることが出来るのだとか。少し入り込んだ場所にあるそうで幻の滝と言われているそうです。
和歌・短歌に詠まれた秋の夕暮れ ~三夕の歌
秋の夕暮れを詠んだ「三夕の歌」をご紹介します。夏の主張に対して、秋は無や無に返っていくその様子に寂しさを感じることがわかりますね。それぞれの訳は西端が考えてみました。哀れなる世界、さて、みなさんの心にはどんな風に伝わりますでしょうか。
見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋(とまや)の秋の夕暮 定家
周囲には花は紅葉があるわけでもなく、海辺には苫葺きの粗末な小屋のあるだけ。そうなのに胸に染み入るこの夕暮れは何だろうか。
心なき身にもあはれは知られけり鴫(しぎ)立つ沢の秋の夕暮れ 西行
心なき、とは出家して俗世間を捨てた身のこと。
俗世間を捨て人の感情から離れた身であるのに、鴫の飛びたつ沢の夕暮れに心に舞う想いがあるよ。
寂しさはその色としもなかりけりまき立つ山の秋の夕暮れ 寂蓮
どの色が寂しいというわけでもないんだな。真木の群生する山の秋、夕暮れ。そのすべてに寂しさが漂うね。
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