上司や先輩、お客様から「これ確認しておいてくれる?」「よかったら読んでおいて」と書類や書籍を渡されることがあります。目上の方に対する返事なので「拝見させていただきます」「拝見させていただきました」と敬語を使いたくなりますが、「拝見させていただいた」という言葉遣いは誤り。「拝見させていただく」という言葉が誤りである理由を説明します。
「拝見させていただきました」という敬語はなぜ誤りなのか
相手を敬う敬語は日本語独特の美しい表現ではあるのですが、相手を上にするのか(尊敬語)、自分が一歩下がるのか(謙譲語)、色々なルールがあって使い分けが難しいもの。厳格にルールを覚えるよりも、声に出して正しい表現に馴染む方が実践的であると言えます。「拝見させていただく」という言葉が誤用であることを知ったうえで「拝見します」「拝見しました」という正しい表現を声に出して覚えてしまいましょう。
「拝見させていただく」という表現は二重敬語になるので誤り。シンプルに「拝見します」「拝見しました」と無駄を削いだ表現を覚えておく
「拝見」という言葉には「拝む」という字が含まれています。
拝むくらいですから、これが敬意を込めた表現であることは理解できますよね。「いただく」という言葉も「いただきます」と手をあわせてご飯を食べ始めることを連想すれば、やはり敬意を含んだ表現であることがわかります。相手を敬う気持ちは大きければ大きいほど良いのでしょうが、それはあくまで気持ちだけのもの。「敬語+敬語」の二重表現は嫌味になってしまう可能性があるので、避けるべき言葉遣いであると言えるでしょう。
文法的な解説を行えば「見る」の謙譲語が「拝む」、「もらう」の謙譲語が「いただく」。謙譲語と謙譲語が続くと二重敬語になるので誤りという言い方ができるのですが、冒頭でお伝えした通り、尊敬語や謙譲語という言葉がかえって敬語への苦手意識を高めているような気もしています。「拝む相手だから」敬っている、「いただきます」と言うときにも手を合わせて拝むポーズをしているというこのイメージを思い浮かべて声に出してみる。すると「二回も拝むのはやりすぎかな?」と印象に残りやすいと思うのですが、いかがでしょうか。
「拝見致します」という表現も二重敬語になって誤りになるのか
「拝見させていただく」という表現は誤りであることを説明しました。では「拝見致します」「拝見致しました」という表現ではどうでしょうか。
議論があるのですが、今では「拝見致します」という表現は誤りではないと言われるようになってきています。文法的に考えると「する」という言葉の謙譲語が「致す」なので二重敬語になっているのですが、「致す」という言葉が一般に浸透した言葉であることから、ほとんどの辞書ではこの使用を認めるようになってきています。言葉は時代にあわせて変化するというその典型ですね。
ただしもちろん、ルールを柔軟に解釈したものが「拝見致します」という言葉であることを考えれば、使う相手や状況によっては神経質な対応を迫られることもあり得ます。「拝見」という言葉についてはシンプルに「拝見します」「拝見しました」という言葉ですぱっと言い切るリズムを身体に馴染ませてしまったほうが無難であると言えそうですね。