贈り物をするときに「粗品(そしな)ではございますが」と言いながら渡すことが多いのではないかと思います。つまらないもので恐縮ですが、という意味合いで使われる「粗品」という言葉。自分自身がへりくだった謙譲表現ですが、受け取った側が本当につまらないものだと思うことはありません。「粗品」は日本語の奥ゆかしさ、謙譲表現であることをお互いが理解しているからですが、書き言葉として使うときには注意しておきたいポイントがあります。
「粗品」という言葉は書き言葉では使わないほうがいい?
金額に関わらず、贈り物を選ぶときは気に入っていただけるかどうか慎重になりますよね。その緊張から、会話言葉として「つまらないものですが」「粗品ではございますが」という表現を使うことは問題ありません。
「粗品ではございますが」と言いながら贈り物をすることは失礼にあたらないが、熨斗(のし)などには書かない方が良い
会話で使うには問題のない「粗品」という言葉ですが、熨斗やお礼状など書き言葉としては使わない方が良いでしょう。渡す相手のことを想って選んだ品物。それを選択するまでの時間や気持ちに嘘偽りはないはずです。では何と書けば(言えば)一番スマートか。
相手のことを想って選んだのですから「本日の記念品を用意いたしました、お持ちくださいませ」という言葉を添えて「記念品」という表現に改めるようにすれば相手も気持ち良く受け取ることができるのではないかと思います。状況によっては熨斗などをつけず「私の大好物なので、是非召し上がっていただきたく」「一目で気に入ったものなので、是非~」という表現を添えるのもいいですね。「粗品」「つまらないものですが」という言葉を使ってしまいそうな画面では「是非」という言葉を思い出す。このポイントを理解したうえで、一度声に出して口に馴染ませておくと良いでしょう。
「粗品」と書かれたものを受け取った側はどう表現するべきか?
さて、贈る立場としては「粗品」と書かない方が良いという話をしました。それでも自分が「粗品」と書かれたものを受け取る機会はあると思います。「粗品」と書かれたものを受け取った場合の御礼の言葉としては、対応する尊敬語「佳品(かひん)」を使うと丁寧です。
「粗品」に対応する尊敬語は「佳品(かひん)」。「本日は佳品をありがとうございました」と使う。
佳品という言葉は聞きなれないかもしれませんが、覚えておきたい美しい日本語の一つ。相手が自分を想って選んでくれたものであることが伝わるときほど「このような佳品をどうもありがとうございます」など意識して使うようでありたいですね。
見極めが難しいのですが、3000円以上する商品を贈るときに粗品という言葉を使うのはかえって嫌味な印象を与えてしまうことがあると言われています。言い換えると、あまり高価でない(と思われる)ものを受け取ったときは、この佳品という言葉も使わないほうがいいかもしれませんね。ただし、この差は状況や立場、その品物によっても変わります。粗品も佳品も使い方を誤ると嫌味になってしまうという点だけ、注意してください。
あえて「粗品」という書き言葉を使った方がいいケース
粗品は書き言葉としてはできるだけ使わない方が良いという話をしましたが、粗品という言葉を使った方が良いケースもあります。
商用目的のノベルティ、お詫びの意味など「配る」意味合いが強いときは「粗品」を使ったほうが良い場合もある
記念という言葉がふわさしくない、商用目的のノベルティやお詫びの意味で配る場合は「粗品」を使ったほうが良いでしょう。贈る相手が特定不特定に限らず「想って」「選んだ」場合は粗品は使わず、「不特定に」「配る」場合は粗品という言葉を使う。このあたりが書き言葉としての「粗品」を使い分けるときのポイントです。
粗品に対応した言葉が「佳品」であったように、粗菓には「美菓」が、粗肴には「佳肴」が対応します。あまり目にする機会もないかもしれませんが、「粗」のつく言葉には対応する語句があるということだけ印象に残して、必要に応じて検索して調べるようにしてみてください。
お裾分け(おすそわけ)という表現は目上の方に使っても問題ないか?
関連して、お裾分けという言葉もよくつかわれる表現ですね。
お裾分け(おすそわけ)の使い方と誤用について ~目上の人に「おすそ分け」って使っていいの?~
「お土産です、お裾分けにどうぞ」「田舎からたくさん果物をもらったので、はい、お裾分け」という風に使われる「お裾分け(おすそわけ)」という表現は目上の人に使うのは好ましくない表現です。お裾分けの誤用と言い換えの表現について紹介しています。
目上の方に「お裾分け(おすそわけ)」という言葉を用いると失礼になってしまう可能性があるので、あわせて、こちらの記事もご覧いただければ幸いです。