「割愛する」には不要なものを省略するという意味はなかった ~「割愛」の誤用と正しい意味と
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最終更新日:2014/04/08
140文字で変わるコミュニケーション, 140文字で変わる表現力 割愛, 誤用
「時間の関係で、この部分の説明は割愛させていただきます」
プレゼンや会議などで、こんなフレーズを聞くことがあります。「本当に伝えたいところは別のところで、このあたりは重要でないので省略します。資料を見ておいてください」というニュアンスで使われることの多い「割愛」という言葉ですが、大切ではないので省略する・切り捨てるという意味で割愛を使うのは誤用。今回はこの「割愛」という言葉について割愛することなくお伝えしていきます。
「割愛する」には不必要なものを省略する、切り捨てるという意味はなかった
割愛するという言葉は、大事ではない部分を省く・省略するという意味で使われがちですが、実は誤りです。
「割愛する」とは、惜しくいもの・大切なものを思い切って省くという意味。愛着を断ち切るという仏教語に由来する。
「割愛する」とは、惜しくて仕方のないこと・とても大切だと思っているものを思い切って省略するという意味。誤用例では、本編に対して重要でないと考えられる部分をカットするという意味合いで用いられると書きましたが、それとはまったく逆。手放したくないほど大切だと思っている部分、愛着を覚えているところを本当に残念だけれど省きますというのが本来の「割愛」の意味なのでした。
つまり「この部分の説明は資料をご覧いただければわかりますので割愛します」という言い方は誤りで、「ここからが面白くなるお話なのですが、時間の都合上、割愛いたします」という言い方ならば本来の意味で使われているということになりますね。
「割愛する」とは仏教の用語。愛着を断ち切るというのが元々の意味になります。
「割愛する」は日本人の6割以上が誤って使っている言葉 ~どう言い替えたら人に優しい言葉になるのか
平成23年度の文化庁による国語に関する世論調査では、「割愛する」という言葉を6割以上の人が不必要なものを切り捨てるという意味で使っていました。本来の「惜しいと思っているものを手放す」という意味で使っている人は、実に2割以下になるんですね。
こういった事情から考えると、「割愛する」という言葉は色々な誤解を招いてしまう可能性のあることがわかります。
たとえば「関西に旅行に来たけれど、明石焼きのお店への訪問は時間の都合上割愛します」という文章があった場合、「神戸牛も食べたいし、大阪で串カツも食べたい。京都ではおばんざいも食べたいから、明石のお店はどっちでもいいや」という意味で使う人もいるでしょうし、「前からずっと訪れたくて、何が何でも食べたかった明石の名物だけれど、帰りの新幹線に間に合わなくなってしまう。本当に残念だけれど、今回は明石焼きは我慢する」という本来の意味で使われる方もいると思います。
いつもお伝えしている通り、コトバノでは「本来の意味はこちらで、あれは誤用。だから使わないようにしましょう」と知識の正誤を押し付けるのではなく、知っている側が、知らない人もいるかもしれないという配慮をすることで、ひとに優しいコミュニケーションを図ってほしいという願いで更新を続けています。今回の「割愛する」という言葉の場合は、こういった誤解となるケースがあることも理解したうえで、
「関西の食べ歩きは色々できたので、明石焼きは次回の楽しみにとっておくよ」
という風に、誰にとっても不快感のない文章で表現できるようになると素敵なのではないでしょうか。
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