「万端」と「万全」の意味の違いと使い分け、誤用について ~「準備万端」と「準備万全」、正しいのはどっち?
「旅の用意は全部できたよ、さぁ出発しよう!」
このように、あらゆるものの準備が整った状態のことを「準備万端」「準備万全」と言ったりする方がいますが、さて、どちらが誤用で正解でしょうか。今回は「万端」と「万全」の意味の違いと誤用について説明をします。
「万端」と「万全」の意味の違いと使い分け、誤用。「準備万端」と「準備万全」、正しいのはどっち?
「万端」と「万全」の違いを区別するために、まず、「万」を「ばん」と読むときの熟語についてイメージを膨らませてみましょう。
万国旗(ばんこくき)と書けば、あらゆる国の旗。万策(ばんさく)と書けば、ありとあらゆる方法。万事(ばんじ)と書けば、すべてのこと。万人(ばんじん)と書けば、すべての人。このように「万(ばん」には「すべての」という意味があります。
そして今度は「端(たん)」という字についてのイメージです。「端(たん)」という字は物事のはじまり、きっかけ、いとぐちという意味があります。
自分が円の中心にいる想像をしてください。そして、その中心から360度、すべての方向に線が広がっているイメージを浮かべます。「端」とは、その線の先(はじまり)の部分のことを指します。
この線も、その横の線も、あの線も、すべての線のその末端に至るまでをひっくるめて、万端であると想像するとどうでしょうか。つまり存在するすべての事柄の、端に至るまでの全部が万端という意味になるということを理解してほしいのです。ひとことで言ってしまうと「万端」は「全部」という意味になるということです。
この説明を踏まえたうえで、準備万端について考えてみます。準備万端は「すべてのことが全部です」と伝えていることになってしまい、意味の通らない文章になっているのが分かるでしょうか。だから準備万端と書くのは誤用であるわけです。
一方で「万全」はどういう意味になるでしょう。
「万全」の「全」という字は「完全」という意味、すべてのことは完全であるということを伝えています。
「準備万全」は「準備はすべて完全です」を表していることになり、これなら意味が通ります。だから「準備万全」と書くのは正しいということになりますね。
準備万端は「準備が全部です」という意味になってしまうので誤用
準備万全は「準備はすべて完全です」という意味になっているので正しい
区別しやすい覚え方として「万全」の「全」という字が「完全(パーフェクト)」と印象付けておくと良いでしょう。準備が完全だから「準備万全」と書く。違いがシンプルに覚えられますね。
なお「準備万端」と単独での使い方はできませんが、「準備万端」自体で「すべての準備」という意味が成り立つので「準備万端、OKです」とか「準備万端、できました」「準備万端、整いました」という書き方は間違いにはなりません。
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