仰げば尊し 我が師の恩
教えの庭にも はや幾年(いくとせ)
思えばいと疾(と)し この年月
今こそ別れめ いざさらば
「仰げば尊し」の歌詞です。最近は卒業式で歌われることも減ってきているそうですが、日本人にとっては馴染み深い唱歌のひとつ。今回はこの「仰げば尊し」の歌詞に出てくる「今こそ別れめ」の「め」の意味について説明をしたいと思います。
仰げば尊しの「今こそ別れめ」の「め」は「別れ目」という意味ではなかった!
唱歌「仰げば尊し」の「今こそ別れめ」は「別れ目」とは書きません。
「仰げば尊し」の「今こそ別れめ」の「め」は意志・決意を表す助動詞。
「別れ目」ではなく「別れよう」という意味になる
仰げば尊しの歌詞に出てくる「今こそ別れめ」の「め」は「~しよう」という意志、決意を表す助動詞。「別れ目」とは書きません。
この「め」は古語の助動詞「む」の已然形になります。助動詞「む」は「意志」を表す言葉。徒然草では「かさねてねんごろに修せんことを期す(もう一度、しっかり修めようと決心する)」という言いまわしが出てきますが、この「ん」と同じ意味になりますね。「~するぞ」「~しよう」という意志、決意表明。
仰げば尊しでは、「別れめ」の前に「こそ」という言葉があります。これは係助詞と呼ばれるものでした。現代語にするときは特に訳す必要はなく、あとの言葉を強調します。つまり「今」というこの瞬間ではなく「別れる」という動詞を強めているわけですね。係り結びによって強調された言葉は已然形になるので、本来「今別れん」と書くところが、已然形の「別れめ」と変化しているわけです。
まとめると「今こそ別れめ、いざさらば」は「さあ、今(こそ)別れよう」という現代語になるのが正解であるということ。「今が別れ目ですね、さよならしましょう」ではありません。
係助詞「ぞ・なむ・こそ」の意味の強さについて
係助詞である「ぞ・なむ・こそ」はそれぞれ、結びの言葉を強調する働きがあります。上でも書いた通り、現代語で考えるときには特に訳す必要はありませんが、意味の強さにも順序があり「ぞ<なむ<こそ」 となっています。仰げば尊しでは「こそ」が用いられているので、特にこの「別れよう」の意味が強調されているということが分かりますね。