「お名前を頂戴する」という誤った敬語を使っていませんか? ~「頂戴」と「ちょうだい」の違い
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最終更新日:2015/06/30
140文字で変わる表現力 敬語, 誤用, 頂戴とちょうだい
「お名前を頂戴(ちょうだい)できますでしょうか?」という表現はよく耳にします。しかし、この「お名前を頂戴する」という表現は誤用。今回は「お名前を頂戴する」という表現が誤りである理由について紹介します。
「お名前を頂戴する」という表現が誤用である理由
敬語の話になると尊敬語や謙譲語、丁寧語という区別が出てくるので難しく感じられてしまいますね。
シンプルに説明したいと思います。「頂戴」という字は「てっぺん(頂)からもらう(戴く)」と書きます。上の方からもらうわけですから、相手は目上の人であるということがイメージできますね。目上の方からものをもらうとき、自分はお辞儀などをして相手に対する敬意を示しながら受け取ります。自分が引いて受け取る、つまり「頂戴」という字は「もらう・受け取る」という言葉の謙譲語であるわけです。
「頂戴(ちょうだい)」という字は「もらう、受け取る」の謙譲語。お名前を頂戴するというのは相手の名前そのものをもらうことになってしまうので誤り
「お名前を頂戴できますか」という表現から敬語表現を取り除くと「名前をもらえますか?」と言っていることになります。たくさん持っている飴玉なら、一つ二つと分けてあげることもできるでしょう。しかし名前は、自分から引き剥がして相手に渡すことはできません。名前をあげることは出来ないので「名前を頂戴する」という表現は誤りであるということが分かります。
「御名刺を頂戴できますか」という表現ならば問題ありません。名刺は元々、配ったり交換したりする目的で100枚や200枚という単位でお持ちの方も多いことでしょう。「お名前を頂戴する」という表現は、この「お名刺を頂戴する」という表現から始まって誤用されるようになったのではないかと考えられています。
「お名前を頂戴する」は何と言えば正しい表現になるのか
「お名前を頂戴する」という表現が誤りであることはわかりました。では、たとえば電話口などで相手の名前を確認したいときはどのように言えば良いのでしょうか。
相手の名前はもらうものではなく、聞くもの。「お名前をお聞かせいただいてもよろしいですか?」「お名前をうかがってもよろしいですか?」を用いる
相手の名前はもらうものではありません、聞くものです。「お名前を頂戴する」という表現を用いたい場面では「お名前をお聞かせいただいてもよろしいですか?」「お名前をうかがってもよろしいですか?」「お名前をお聞きしてもよろしいですか?」という表現を用いるようにしましょう。
頂戴(漢字)とちょうだい(平仮名)の使い分けは必要か
「下さい」と「ください」の場合は漢字と平仮名で使い分ける場面もある(ただし一般的にはあまり厳密に考える必要はない)という話を書きました。
「下さい」と「ください」の意味の違いと使い分け ~英語にすると区別しやすい! | コトバノ
同じように「頂戴」と「ちょうだい」を漢字と平仮名で使い分ける必要があるのか、意味の違いは生じるのかということについて説明します。
結論から先に言うと「頂戴」と「ちょうだい」は漢字で書いても平仮名で書いても問題ありません。「ざます言葉」のような上から目線の印象を与える、あるいは小さな子どもがものをほしがるときに言うような幼稚な印象を与えるという可能性はありますが、「~して頂戴(ちょうだい)」「それを頂戴(ちょうだい)」と書くときは漢字で書いても平仮名で書いてもOKです。「下さい」と「ください」の場合で説明したように「公用文では平仮名を用いる」という考え方がないわけでもありませんが、普通、役所内で使われる文書で「ちょうだい」と書くような状況はまず考えられません。私たちが普段使ううえでは、「頂戴」と「ちょうだい」は区別する必要はないと言えるでしょう。
なお、歴史的なことでいえば、元々は「頂戴する」と動詞で使われていたものが「~して頂戴」と補助動詞として使われるようになった珍しい変化をした言葉であるとも言えます。「~してください」と平仮名で書く人が増えているのと同様に、「~してちょうだい」も今では平仮名で使われることが多くなってきています。
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