「葬式、結婚式は恙なく(つつがなく)無事に終了しました」と書いてはいけない理由
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140文字で変わる表現力 スピーチ, つつがなく, 恙なく, 滞りなく
誤用と呼ばれるような表現であっても、最近はその誤りが一般化してきていることもあって耳に入ってくる音だけでは気付かないケースも多くあります。逆に言うと、書面にした言葉はいつまでも残ることになり、恥をかいてしまうこともしばしば。スピーチなどで使われる言葉は、たとえ口頭の挨拶であってもその書面を相手に渡すケースもありますので特に気を付けたいところです。
「葬式や結婚式が恙なく(つつがなく)終了した」と書くと誤用になってしまう理由
結婚式や葬式はスムースな進行が期待されるもの。「恙なく(つつがなく)進行して終了した」と書いても問題はないような気がしますが、何故誤用になってしまうのでしょうか。
恙なく(つつがなく)は、
「何ごともない」という意味。ただし、
何かが起こっても不思議ではない状況で
何も起こらなかったときにだけ使う
恙なく(つつがなく)は何かが起こっても不思議ではない状況で、幸いに何もなかった場合にのみ使える言葉。たとえば旅行、たとえば日常生活。そういった状況では、もしかすると事故に遭うかもしれず、事件に巻き込まれる可能性もあり得ます。つまり、何かが起こっても不思議ではない状況。こういうときに「恙なく旅程を終えた」「恙なく毎日を過ごしている」と書くことは問題ありません。
一方で、葬式や結婚式は、不測の事態が起こるという予想は基本的にはしません(してはいけません)。トラブルがなく、予め決められた進行に基づいて無事に終わることが見込まれるもの。何かがあっても不思議ではないという前提は成り立ちませんので、葬式や結婚式を表現するときに「恙なく(つつがなく)」という言葉は用いません。
葬式や結婚式が無事に終わったことを使う言葉は
それでは葬式や結婚式が無事に(前提通りに)進行した場合はどんな風に表現するべきでしょうか。
葬式や結婚式が無事に進行した場合は
×恙なく(つつがなく)
○滞りなく(とどこおりなく)
を用いる
大きなトラブルがなく、無事に葬式や結婚式が進行した場合は「滞りなく(とどこおりなく)」という言葉を使います。式の終盤、締めの挨拶などで進行がスムースに行われた謝辞を伝える場合は、特に間違えることのないようにしておきたい言葉ですね。
結婚式で覚えておきたい表現力
挨拶、スピーチを求められることのある結婚式では、語源や誤用を知っておくとうっかりミスを減らしやすくなります。
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言葉を選ることは相手への思い遣り
細かい表現に意識を向けすぎて、形骸化した挨拶になってしまっても意味がありません。ただ、こういう言葉を使ってはいけないな、や、この言葉の由来はこういうことだったんだな、ということを知りながら相手への挨拶に言葉を選ることは、相手を想うからこその行為であるともいえます。
ほんの一手間、すこしの意識で、相手の心に響く文章になることをコトバノはお祈りしております。
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