「神戸のコピーライターです、言葉や表現のお仕事がありましたらご用命ください」と書くとき、この「ください」を「下さい」と書いてしまうと誤りでしょうか? 今回は「下さい」と「ください」の意味の違いと使い分けについて解説します。
「下さい」と「ください」の意味の違いと使い分け
「下さい」と「ください」の使い分けですが、英語にすると区別しやすくなります。
物が欲しくて「ちょうだい(give me)」の意味で使うときは「下さい」と漢字、何かしてほしくて「しておくれ(please)」の意味で使うときは「ください」と平仮名で書く
何かものが欲しいとき、give meの意味で使うときは「下さい」と漢字で。相手に何かをしてほしいとき、pleaseの意味で使うときは「ください」と平仮名で書くのが使い分けの基本的なルール。冒頭の例文では「仕事がありましたら(どうぞ=please)私にご用命ください」と頼んでいるので平仮名で書くのが正解になります。その後、実際に仕事の依頼があったとしましょう。「Aさんは私に仕事を下さった」という場合は、仕事というモノが与えられた(give)と考えますので漢字で書くのが正しいというわけですね。
「下さい」と「ください」の使い分けを正しいと決めつけて良いのか?
ところでこの「下さい」と「ください」の使い分け、あまり厳密に考えすぎる必要もないというのが実際のところです。
「下さい」と「ください」の使い分けの歴史的な経緯でいえば、かつては「下さい」は使わずに「ください」と平仮名で書きなさいというルールが定められた時期もありました。昭和48年になって文部省用字用語例によって示されたのが今回解説した漢字と平仮名の使い分け。ちょっとだけ難しい説明の仕方をすれば動詞で使うときは漢字の下さい、補助動詞で使うときはひらがなのくださいを使うようにしなさいというお達しが出たわけです。
しかしこの「文部省用字用語例」というのは、主に公用文や教科書のなかで用いるときに注意するべき表現がまとめられているもの。つまり役所のなかでの原則的なルールとして使い分けが提唱されているものなので、私たちが使い分けの仕方を誤ったとしても、ただちにそれが不正解であるということにはならないのです。
こちらの画像をご覧ください。
これは県道に設置された看板、つまり役所がつくった看板です。役所内の表現のルールでいえば「自転車はおりて通行してください」と書くのが正解なのですが、ルールに縛られて「通行してください」と平仮名にすれば、一文字分看板の面積が広く必要になってしまうことがお分かりいただけるのではないかと思います。言わずもがな、看板の面積が広くなればそれだけ予算も必要になりますので、これは表現の正しさよりも予算を無駄にしないという役所の考えがあって作られたものであるということが推測できます。
「下さい」と「ください」の使い分け、一応のルールは存在するものの、実際の使い分けはかなり柔軟に行われていると考えて良さそうですね。