「破天荒」の誤用と正しい意味と ~実は褒め言葉だった「破天荒」
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140文字で変わる表現力 破天荒, 誤用
破天荒という漢字のイメージから「めちゃくちゃ」「豪快」「型破りである」という否定的な意味合いで使われることが多いようですが、実は全て誤用。「破天荒」という言葉の正しい意味についてまとめてみます。
「破天荒」の正しい意味 ~否定的な意味はなく、褒め言葉である
破天荒には「乱暴」「豪快」といった強引に物事を推し進める意味はありません。
「破天荒」とは、今まで誰も成し得なかったことを行うこと
=前人未到の境地を切り開くこと
破天荒とは、今まで誰も成し得なかったことを行うこと。たとえば、まだ誰も登ったことのない山を登頂したとき、かつて名選手たちが作り上げてきた記録を上回ったとき、その偉業は称賛に値するものです。このように前人未到の境地を切り開き、その頂(いただき)に立つような行為のことを破天荒といいます。
「破天荒な記録」「破天荒な試み」「破天荒な会社経営」、これらはすべて、プラスの意味合いで名詞を修飾しています。「彼の経営手腕は破天荒で、倒産は間違いない」という書き方をよく見かけますが、これは誤りです。
破天荒の「天荒を破る」とは何か ~破天荒とはヒーローのこと
かつて中国で行われていた科挙という試験のことを「天荒」といい、その試験に、ある土地からはじめて合格した人間が現れたので「天荒を破った」と書くようになったと言われています。また、混沌とした状態、未開の地という意味としても天荒という言葉は使われ、その地を切り開いたという意味でも「破天荒」という言葉は成り立っていったとも考えられています。
いずれにしても、破天荒には事実や概念、前例の存在しない世界に向かって果敢に挑んでいき、見事にその大願を成就させた人間の姿が浮かぶのではないでしょうか。それはまさにヒーローそのもの。どちらかというと悪党や乱暴者の意味で使われてしまいがちですが、180度逆の意味があるということを確認しておきたいですね。
破天荒は6割以上の人が間違える言葉 ~パイオニア・前人未到という言葉を使えば無難
平成20年度に文化庁が行った国語に関する世論調査では、破天荒という言葉の意味を6割以上の人が誤って認識していました。
文化庁 | 国語施策・日本語教育 | 国語に関する世論調査 | 平成20年度
破天荒という言葉はつまり、ほとんどの年代で誤った意味が一般化しつつあるということ。日本語は時代とともに変化していきますので、この誤用例が辞書に掲載されるのもそう遠くはないのかもしれません。ただ、「正しい意味を知る人」と「正しい意味を知らない人」の両方が存在する状況では、やはり正しい意味を知る側が知らない側に配慮をすることが好ましいのではないでしょうか。
「破天荒という言葉の使い方、誤っていますよ」と指摘して会話を気まずくしてしまうのではなく、前後の文脈から相手が本来の褒め言葉として使っているのか否定的な意味合いで使っているのかを察する、また、自分自身が使うときは相手を混乱させないよう「彼は前人未到のことをやってのけた」「彼はこの世界のパイオニアだ」と類語に置き換えてみる。この配慮こそが、表現力を学んでいく目的の一つであると私は考えています。
日本語の変化を否定せず、また、日本語を狩るのでもない。正しい知識は、相手に自分に優しくなるためのもの。いつもお願いしていることですが、コトバノでお伝えしている知識情報が皆さんの円滑なコミュニケーションの一助になれば幸いです。
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