「貸したお金の半分がようやく戻ってきた、まあいくらか返ってきただけでも御の字(おんのじ)だね」と御の字をとりあえず納得できるという意味で使うケースが見られますが誤用です。御の字という言葉が持つイメージを確認しておきましょう。
「御の字」は「満足はしてないけれど、納得できる」という意味ではない
「御の字」という言葉に、100点満点中の60点くらいの合格点というイメージを持つ人がいますが、この解釈には注意が必要です。
「御の字(おんのじ)」の正しい意味は「大いに有り難く、非常に満足である」。「満足というほどではないが、納得できるレベル」という意味で用いるのは誤り。
御の字の正しい意味は状況や結果に大いに満足して有り難いと思っている状態のこと。
どの程度を満足と思うかは人それぞれですが、たとえば60点を目標として臨んだテストで70点であれば満足のいく結果だったと言えるでしょう。この場合は自分の想像以上の結果が出ていますので「とても有り難いなあ、御の字だよ」という表現を用いることができます。一方、70点くらいは取れると思っていたテストで、60点しか取ることができなかった。60点が合格点だとしても、取り組んできた勉強に対して本人は不本意な結果であったと感じるのではないでしょうか。「それでも合格したのだから、まあいいか。御の字だね」と表現してしまうと、これは誤りになります。
御大(おんたい)や御身(おんみ)など、「御」という字は特に優れたものの頭につく最上級の尊敬語。「御」という字をつけたくなるほどの尊いものであると考えれば、御の字という言葉が「まあ納得できるレベル」という場面で使うものではないということが想像できます。
文化庁の国語に関する世論調査で「御の字」はどんな風に理解されていたか ~満足か納得か
平成20年度の文化庁による国語に関する世論調査でも「御の字」にについて、興味深い結果が出ています。
文化庁 | 文化庁月報 | 連載 「言葉のQ&A」平成20年度の「国語に関する世論調査」 …
どの世代でも、「御の字」を「一応納得できる」という意味で誤って理解している人が「大いに有り難い」という正しい意味で理解している人を上回っています。
御の字の本来の意味を知っている人は,自分自身の「70点」に対する感じ方とは関係なく,その誰かの発言を「70点取れれば大いに満足だ。」と解釈することができるでしょう。しかし,本来の意味を知らない人の中には,「70点」を「満足ではないが,喜べる最低ラインの点数」と受け取って「70点取れればとりあえず納得できる。」と解釈する人がいるかもしれません。
御の字という言葉の対象となったものが「満足」なのか「納得」なのか。+(プラス)だと思っていたものが-(マイナス)だったというほどその2つに大きな違いがあるものではありませんが、御の字という言葉が用いられる場面で、聞き手は、どちらにしても「良かったね」というニュアンスの気持ちを伝えることが求められます。話し手が正しい意味の「満足」で用いているときは「おめでとう」という表現の仕方が適切でしょうし、誤った意味の「納得」で用いているときは「まあでも、とりあえず良かったね」というテンションをやや落とした会話が求められるでしょう。
前後の文脈や会話で、どちらのニュアンスで使っているのか判断する必要がある「御の字」。いずれにしましても、「その御の字の使い方、間違ってるよー」と言ってしまうのではなく、(こちらの意味で使っているのだな)と判断して柔軟な会話を心がける、そんな風になっていただければ、私としても「御の字」なのであります。